4月29日8時0分配信 産経新聞
1試合にあるか、ないかの出番を待つ“代打稼業”。勝敗の行方を決める試合終盤の好機に使われる選手は、文字通りの「切り札」だ。セ・リーグ開幕から28日で1カ月。いま、巨人を除くセ・リーグ5球団は、かつて主力打者だったチームの生え抜きがこの役割を担う。阪神・桧山、中日・立浪、ヤクルト・真中…。「引退」の2文字と隣り合わせのベテランの背中は、若い選手に勝負の厳しさを語りかける。(田中充)
甲子園で「代打・桧山」がコールされると、スタンドから大きな声援が沸く。“暗黒時代”からタテジマ一筋17年目の38歳。野球協約に定められた減額制限(25%)を超える2500万円減の年俸4000万円で迎えた今季は、後がないが、練習では大粒の汗を流してバットを振り込んでいる。
背中で見せられる選手になる-。いま、桧山はそう誓っている。「どんな一流打者でも10回に7回は失敗する。大事なのは、失敗を次にどうつなげるか。そのために、何をしなければいけないかを見せたい」
試合前の打撃練習では試合よりも投手に近い位置に立つ。体感速度が増した状態で打つのは1打席で結果を出すためだ。かつて「代打の神様」と呼ばれた八木裕氏の方法をまねたもの。代打でも腐ることなく、球団の代打本塁打記録(13本)を達成した先輩の背中から、自らも学んだ。
桧山がレギュラーを外れたのは2006年。だが、代打3年目を迎えても気持ちは切れない。試合中は試合の流れを読み、出番に備えて素振りを繰り返す。開幕から1カ月が経過したが、打率は4割。高い集中力で若手の手本になり、好調なチームの支えになっている。
他球団を見渡しても、セ・リーグの代打陣は「チームの顔」だった選手が多い。シュアな打撃で名球会入りしている中日・立浪、チームの黄金期に3割を2度マークしたヤクルト・真中、1995年から3年連続盗塁王に輝いた広島・緒方、97年から2年連続首位打者の横浜・鈴木尚…。
95年の打点王で、引退前は代打で活躍した元ロッテの初芝清氏(サンケイスポーツ評論家)は「第一線にいた選手は代打に甘んじるつもりがない。その気持ちが練習に出るから、レギュラーも手が抜けないんです」と話す。2005年には、チーム31年ぶりの日本一にも貢献した初芝氏。「ベテランの『どんな形でも貢献しよう』という姿勢は、チームを一つにするんです」と断言した。
その気持ちを支えるものこそが、本拠地での大歓声。高卒1年目から見守ってくれるファンの後押しに、立浪は「ありがたくて涙が出そうになる」と目頭を熱くしたことがある。熱い声援と若い選手の視線を背中に受けた名選手は、野球人生の集大成をひと振りで表現している。
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■セ・リーグの生え抜きの代打陣
球団名 選手名 齢 今季の成績
阪 神 桧山進次郎 38 10打数4安打2打点
中 日 立浪 和義 38 15打数無安打1打点
ヤクルト 真中 満 37 12打数1安打0打点
広 島 緒方 孝市 39 16打数5安打1打点
横 浜 鈴木 尚 36 16打数4安打0打点
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